PREVENTIVE
体から腫瘍を完全に取り除き根治的に治療することができる可能性のある治療であるため最も効果的な治療法の1つとなります。手術には全身麻酔が必要となるため、動物が受ける体の負担(侵襲性)や全身麻酔のリスクも含めて総合的に判断していきます。
腫瘍が単独であり、転移がなく、手術にて摘出可能な場合は、腫瘍の外科的切除が第一選択となります。腫瘍は良性であっても大きくなりすぎてしまうと、皮膚にできている腫瘍であれば歩行に影響したり、胸やお腹の中では、肺や胃、腸などの他の臓器を圧迫していまい機能障害をきたしてしまうため、手術で摘出が必要になるケースも多いです。ここでは、皮膚や臓器ごとの手術の概要と発生の多い病気を挙げています。
皮膚にできる腫瘍は、頭部、頸部、尾部、指などできる位置によってなりやすい腫瘍が異なり、位置によって手術方法も変わってきます。腫瘍の大きさと、良性あるいは悪性のどちらが疑われているかによって、切除する大きさも変わり、小さなしこりでも悪性腫瘍の可能性もあるため、細胞診(細い針を刺す検査)で悪性が疑われる場合には切除が必要です。
▲ 皮膚に発生した肥満細胞腫
腫瘍の広がりや、位置によって切除できるかどうかも決まります。口腔内にできる腫瘍は悪性腫瘍であることが多いです。腫瘍ができている位置とその広がりによっては、顎の骨を切除しなくてはならない場合も多く、その場合は外貌の変化や、食事に影響がでてしまう可能性もあります。その一方で、腫瘍によっては摘出によって良好な経過をたどれるものも少なくありません。
▲ 口腔粘膜に発生した悪性黒色腫
肝臓にできるしこりには結節性過形成という良性の病変が多くみられます。超音波検査やCT検査では良性あるいは悪性の診断をつけることはほとんどできません。良悪いずれの腫瘍であっても増大が見られる場合にはなるべく小さいうちに摘出することが望ましいです。肝臓腫瘍は肝臓すべてをとることはできないため、動物用超音波手術器(ソノキュア)という手術器具を用いて、腫瘍以外の組織をなるべく傷つけることなく、腫瘍を取り除きます。
脾臓にできるしこりの約2/3は悪性腫瘍で、悪性腫瘍のうち約2/3が「血管肉腫」という悪性肉腫であるともいわれています。脾臓の手術は「脾臓摘出術」といい、脾臓をすべて摘出することが一般的であり、脾臓は血液を貯蔵する臓器であるため、体から全て摘出しても、日常生活に影響はないと考えられています。脾臓には様々な血管が通っており、当院では糸を使わずに血管を処理することが可能である外科手術用エネルギーデバイス(サンダービート)を用いて体の中に糸を残すことなく手術することが可能です。
▲ 脾臓の全域に発生した腫瘍
腎臓にできるしこりは悪性腫瘍が多いですが、腎臓には腎炎など炎症によりしこりのように見える場合や、腎嚢胞などが多く発生するため、超音波検査等を行いしっかりと鑑別していかなければなりません。腎臓は体の中に左右1つずつあり、腎臓の腫瘍の場合には片方にできるのが一般的のため、病変側の腎臓を摘出します。
膀胱や尿道などにしこりができてしまうと尿の通り道を塞いでしまい、良性腫瘍でも重大な問題になる場合があります。
左右の腎臓の横には副腎という小さな臓器があります。クッシング症候群という犬に多い病気はこの副腎が原因となっております。副腎にしこりができる場合もありますが、大部分においては、クッシング症候群の原因となる副腎の腫大がほとんどで、副腎自体の腫瘍は少ないです。
▲ 膀胱内に発生した腫瘍
オスでの発生は稀であり、一般的にメスでみられます。犬の場合は乳腺腫瘍のうち50%(つまり半分)は良性腫瘍と言われております。その一方で猫の場合は80%が悪性腫瘍です。猫の場合は、悪性腫瘍かつ転移の可能性も高いため、見つけた場合はできるだけ早く手術で取り除くことが重要となります。
乳腺腫瘍の手術は、犬か猫か、腫瘍のできている位置や大きさによって、手術方法が大きくことなるため、予めの手術計画や診断が重要となります。
腫瘍外科療法は、腫瘍によって様々な治療法があります。
腫瘍の治療としては、手術が最も確実に体から腫瘍を取り除くことのできる治療になるため、手術が適応になる場合は実施が推奨されます。しかしながら、腫瘍外科療法を検討されている方の中には、どれくらいの侵襲性(痛みや苦痛)があるのか、回復までどのくらいかかるのか、根治はできるのかなど、いろいろな悩みや不安が出てくると思います。私達は動物と飼い主様に寄り添いながら、治療を提案し、ご納得頂いた上で治療を開始致します。
ご不明な点がありましたら、お気軽に当院の腫瘍科までご相談ください。